先生セキララ日記 ~幼稚園の現場から~

幼児教育・子育てについて、幼稚園教諭の視点から綴ったブログです。現役の先生、保護者の方、これから先生になる人達と一緒に考えていくことを目指しています。

幼児教育・子育て全般

子育ての社会化について考える

2023/01/21

 平成30年度の調査によると、虐待の加害者は、実母が最も多く(47.0%)[1]、育児困難をきたす母親も増えている。このような育児不安や、育児疲労、虐待は母親の苦しさだけにとどまらず、子どもの心身や子母子関係にも影響すると考えられる。

 保護者の育児不安、育児疲労の軽減、虐待の防止、そして子どもの健やかな育ちのためには、子育てを社会全体で支える必要がある。

 では、子育ての社会化について、どのようなことが求められるのだろうか。

親子が交流できる場

 第1に、親子が交流できる場の確保が求められる。たとえば、保育所や幼稚園、児童館の園庭や施設開放、公園の充実が考えられる。

森(2016)は、子どもは「育てられる」だけではなく、「育つ」存在であり、適切な環境を与えられれば、自分でよいものを吸収して立っていく力をもっている。そのため、子どもが「育つ」環境を整えることが社会の仕事になる[2]と述べている。そのためにも、親子が気軽に足を運べる場づくりや、子どもが安心して遊んだり過ごしたりすることができる場の整備が必要であると考える。

 園庭には、子どもの発達に必要な遊具やスペースがあるところが多い。家庭以外の場所で安全に伸び伸びと遊具で遊んだり、走り回ったりすることは、健康な体の育成に重要である。また、母親とのかかわりだけでなく、子どもにとって他児との交流は、刺激や喜びとなる。

 母親にとっては、園庭や施設を開放することで、同年齢の子どもをもつ母親との交流につながる機会になる。保育所に入園せずに、もしくは、入園できずにいる子どもと保護者もいるが、家庭で、母親が一人で子育てをすることは、母親にとっては、悩みや不安が大きくなったり、ストレスにつながったりすることもあると考えられる。同じ立場の方と話したり相談し合ったりすることは、母親のストレス解消や、不安軽減につながると考えられる。そして、日頃、他者とつながりをもちにくい母親も、園庭で子ども同士が一緒に遊んでいることをきっかけに、会話につながっていくことも考えられ、親子が交流できる場の確保は、母親の孤立を防ぐ役割を担うと考えられる。。

さらに、保育所・幼稚園・児童館の園庭・施設開放は、保育者や心理師等の専門家とつながる機会となり、相談がしやすくなる。土谷(2008)[3]は幼稚園に設置された子育て支援室「遊びの広場」における実態と、そこでかかわったハイリスク事例を紹介し、日常場面における育児・保育支援の実際と問題点を考察している。その中で、「遊びの広場」における役割と対応として、受け入れ、見守りとアセスメント、環境構成、地域情報の準備、地域資源につなぐ役割と連携、確認と見直しを挙げている。ここでは、単に場の提供にとどまらず、子育て支援に関する顕在化ニーズと潜在化ニーズを読み取った上で、保護者を労い、必要に応じて教育方法のモデルを示したり、情報交換ができるように保護者との橋渡しをしたり、専門機関を紹介するなど、子育ての協働者としての役割を果たしている。

 このように保育所や幼稚園に入園していなくても、家庭以外に親子の居場所をつくることは、子育ての楽しさを感じたり、他者と思いを共有することで不安を軽減したりすることにつながると考えらえる。また、他者に子育てを肯定されることで、子育ての自信をもったり自己肯定感を高めたりすることができると考えられる。

ネットワークの構築

第2に、多様なネットワークの構築を支えることが求められる。

 特に、出生後だけでなく、体調の変化や不安が大きい妊娠時から出生直後、保育所・幼稚園に入園するまでの期間には、細やかな支援が必要である。妊娠や出産は母親にとって、喜びであると同時に、生活環境が変わることや体調への異変から、ストレスや今後の不安が重なる時期でもある。そのため、体調の変化に対応したり、今後の見通しをもったりすることができるよう、知識を与えたり支援をしたりすることが望まれる。

 生後1か月の検診は、出産した病院で行われることが多く、赤ちゃんの成長を見ることが目的だが、母親にとっては育児をめぐる具体的な疑問を尋ねる機会になる。出産直後の母親はマタニティ・ブルーズや産後うつにかかるリスクが高く、健診までの1か月間にも慣れない育児期は生活の急変をめぐる戸惑いを相談できる窓口を用意している病院や助産院が増えている[4]

 ただ、出産直後には医療機関や保健所とのつながりがあるが、そこから幼児教育施設に入園するまでには空白の期間がある。特に初めての子育ての場合は、混乱や見通しのもちにくさ、不安、しんどさが重なる時期でもある。子どもの育ちは個人差が大きく、また、育児への分からなさと、思い通りにいかない苦しさ・大変さがあることが予測される。そのような時期にこそ、多様なネットワークが必要である。子どもが健やかに成長していくためには、医療、療育、保育所、幼稚園、学校、保健所、市町村保険センター、児童相談所などが連携し、それぞれの専門性をいかしながら、多面的な視点で子どもや保護者を支えていくことが必要であると考える。

また、一時的な支援ではなく、節目に円滑な接続や連携を行い、乳幼児期から就労まで連続性のある支援が求められる。

里親制度の拡大・理解

 第3に、里親制度の拡大や、里親についての理解を広げていくことが求められる。

 虐待などの不適切な養育が行われている場合、子どもの心身の健康被害だけでなく、生命の危険がある。また、保護者が亡くなったり病気になったりして、養育を受けることができない場合がある。このような場合、子どもを家庭に受け入れて養育することができるのが里親である。

 不適切な養育を受けている子どもや保護者がいない子どもにとって里親は、特定の大人との愛着や信頼を築いたり、自分の居場所を感じたり、自己肯定感を高めるなど、大きな役割を果たすと考えられる。

 しかし、里親への認知度はまだ低く、また、里親への理解や偏見もあるように思われる。また、「複雑な家庭のなかで生活してきた子どもが試し行動などを行う等、対応に苦慮している里親家庭もある[5]」ことや、「児童相談所等による里親支援が十分機能していない[6]」という指摘がある。

 里親に対する周囲の理解と里親への支援・相談の充実が望まれる。

 以上、子育ての社会化について 3つの観点から述べた。このように、子育ての社会化を実現するためには、社会全体で考えていく必要がある。多様な家庭の在り方を尊重しながら、子どもや保護者のニーズに寄り添い、適切な社会資源と家族をつなげていくことが大切である。

引用文献


[1] 厚生労働省 平成30年度福祉行政報告例の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/18/dl/gaikyo.pdf

https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1998/dl/04.pdf

[2] 森茂起 (2016) 『「社会による子育て」実践ハンドブックー教育・福祉・地域で支える子どもの育ちー』岩崎学術出版社、 p26

[3] 土谷みち子 (2008)「日常生活場面における育児・保育支援」 臨床発達心理実践研究 第3巻 p18-26

[4] 前傾注(2)、 p169

[5] 公益財団法人 児童育成協会監修 松原康夫・村田典子・南野奈津子編修 (2019) 『新基本保育シリーズ5 子ども家庭支援論』、中央法規 p103

[6] 同上

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