先生セキララ日記 ~幼稚園の現場から~

幼児教育・子育てについて、幼稚園教諭の視点から綴ったブログです。現役の先生、保護者の方、これから先生になる人達と一緒に考えていくことを目指しています。

幼児教育・子育て全般 発達障がい

通常学級における特別支援教育を行う際の視点

2023/01/21

 平成25年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が制定されたことや、平成29・30年に学習指導要領の改訂されたことにより、特別支援教育は、大きな節目を迎えている。

 また、通常学級の中でも、支援を要する子どもへの配慮が必要とされている。

 そのため、特別支援教育を学校教育全体の問題と捉える必要がある。

 教師・保育者を目指す上でも、職を担う上でも、特別支援教育への理解は欠かせない。そこで本稿は、通常学級における特別支援教育を行う際の視点を6つに分けて整理し、考えていきたい。

1.ユニバーサルデザイン授業  

 児童生徒数が減っている一方、支援対象児童生徒は増加している。支援を要する子どもの増加にあたり、授業のユニバーサルデザイン化が求められている。

一人ひとりの困りはどのようなことであるのか、どのようにすれば授業がわかりやすくなるのか、また、参加しやすくなるのかということを考える必要がある。

 そのためには、担任だけではなく、特別支援コーディネーターを含めた校内委員会を開き、チームとして考えることが有効であると考えられる。経験年数や役割、立場によって、考え方や見方が異なるため、校内員会を開くことで、個のニーズに応じた教育に対して、広く多角的な視点から考えることができるだろう。

 授業をユニバーサルデザイン化することは、「3段階の心理教育的援助サービス」における、3次支援の対象を縮小化することができると考えられる。「支援の階層性」における、1次的援助サービスすなわち、「通常の授業における配慮支援」を手厚く丁寧に行うことで、2次的援助サービスの対象である「学級内での個別支援」や、3次的援助サービスの対象である「取り出し支援」を包括することにつながるのではないだろうか。もちろん、1次的援助サービスだけでは対応しきれない場合、2次的援助サービス、さらには、3次的援助サービスの対象児を早期に発見し、その都度援助をする必要がある。子どもが伸び伸びと自分らしく過ごせるように、そして、子どもをとりこぼすことなく援助することができるように、1次的援助サービスを広く、深く考えていくことが必要である。  

2.一人ひとりの良さと可能性を引き出す認め

 子どもは、一人ひとり異なる良さや可能性をもっている。子どもの「できないところ」ではなく、得意なことや良さを認め、伸ばすことで、一人ひとりがその良さを活かして過ごすことができるようにすることが大切である。

 一人ひとりの良さや可能性を引き出し、子ども自身が自分の良さを感じることがは、自己肯定感を高めることにつながる。また、自己肯定感は、生活や学び、遊び等への意欲にもつながっていくだろう。

 一人ひとりの良さを認めることは、子どもが、受け止められ大切にされていると感じることにつながると考えられる。自分が大切にされていないと、他者を大切に思うことは難しい。自分自身が認められていると感じられるようになることで、他者を大切にし、温かい関係が広がっていく。一人ひとりが認められ、大切にされる空間で子どもたちが学ぶことができるようにしながら、それぞれの苦手な部分を、互いにカバーしながら過ごせるようにすることで、仲間関係も育まれると考えられる。

3.「障害のある子どもの教育」から「個のニーズに応じた教育」への転換

 平成24年の文部科学省による「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査[i]」では、「学習面又は行動面で著しい困難を示す」児童生徒の割合は、6.5%であった。また、平成26年の文部科学省の調査では、「公立学校に在籍する外国人児童生徒の4割が日本語指導を必要としており、増加傾向にある[ii]」ことがわかっている。さらに、2020年6月1日の朝日新聞では、「静かな荒れ」が学校現場で広がっている実態を指摘[iii]している。

 このように、支援を要する子どもは、障害のある子どもたちだけではない。また、障害のある子どもの教育は、特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室だけで行われるものではない。このため、通常の学級の中で、担任が全体を見つつも個のニーズに応じた教育を行う必要がある。

 その上で必要となる視点が、「平等」についての考え方である。すなわち、「配慮が行き届いている平等と、同じスタイルで皆同じようにすることが平等である」という2つの視点である。「同じことを同じように」という考え方では、一人ひとりのニーズに応じた支援を行うことはできない。それぞれの良さを発揮できるようにしたり、特性や困りに応じた支援をしたりするためには、それぞれの特性や困りを的確に捉え、それに応じたサポートをすることが求められる。

「同じスタイルで皆同じようにすることが平等」であるという考え方は、子どもからの「不公平」「ずるい」という声を視野に入れたものであると考えられる。しかし、日頃から、一人ひとりが認められ、それぞれに応じた支援を受けることができていると子どもたちが実感することができれば、「不公平」「ずるい」といった声が出ることはないのではないだろうか。

4.子どもの願いや困り、ニーズについて細やかによみとる視点

 学級担任には、授業力や学級経営力、保護者対応力、同僚とのコミュニケーション力等が求められる。これらは、学級を運営するにあたり必要不可欠なものである。しかし、このように全体を俯瞰し学級経営を行うことだけが、担任の役割ではない。一人ひとりの子どもを理解し、それぞれの良さを活かしたり困りに応じた支援を行ったりして、子どもが安心して学校生活を送ることができるようにサポートしていく必要がある。

 そのためには、子どもの願いや困り、ニーズ等を細やかによみとる視点が必要である。困りやニーズを声に出す子どももいれば、それを言葉にすることが難しかったり恥ずかしがったりする子どももいるだろう。そのため、 教師は、子どもの様子や言動といった目に見える事象だけでなく、生活環境、発達過程や障害等の特性などから、子どもの願いや困りについて、言葉にならない思いも含めて察したりよみとったりすることが大切である。

 また、子どもに直接困りを聴くことが必要な場面もあるだろう。その際、困りを聞かれた子どもが、それに答えるかどうかについては、教師との信頼関係が重要な役割を果たすと考えられる。“この先生にならわかってもらえる”という安心感や信頼感をもてるように、日頃から、学級や担任との関係が子どもの心の居場所となるように心がけることも、学級担任の役割の一つであると考える。

5.一貫した支援

 一貫した支援の整備では、どの地域に移住しても、安心して自分に合った学びの場が選べること、そして、進学・就学先への引継ぎといった二つの視点での一貫した支援が求められる。

 移住や進学のたびに、子どもの特性や要する支援について、子どもや保護者が一から理解を求めるのは、大変な労力である。また、移住先や進学先でも、一から支援の方法を模索するのには、時間を要する。

 そのため、 「個別の教育支援計画」の策定 や、関係者同士の交流等を通して、子どもや保護者が安心して移住・進学できるよう、一貫した支援を行うことが求められる。

 なお、どちらも、迷ったときや困ったときには、特別支援コーディネーターが働きかけることが有効である。

 医療・保険・福祉・労働・学校・専門職が一体となり、横にも縦にも支援の輪を広げていくことで、支援の充実を図ることが必要である。

6.多面的な支援を受けられるようにすること

 平成26年の「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果[iv]」では、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の受けている支援の状況」で、「現在、いずれかの支援がなされている」割合が55.1%、「過去、いずれかの支援がなされていた」割合が3.1%であるのに対し、「いずれの支援もなされていない」割合が38.6%であった。

 発達障害や知的障害、身体障害は、乳幼児期からの発見が可能であることが多い。しかし、 知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされる子どもは、見た目からはわかりにくく、発見が遅れることがある。

 適切な支援がなされなかった場合、不登校や退学等のリスクが高くなる。また、本人の意欲や自己肯定感を高める指導には本人の認知特性に合わせた学習支援が必要であることをふまえると、支援を要する子どもについて、早期にキャッチアップし、多面的な支援につなげていくことが大切である。

 そのために教員は、乳幼児期から青年期までの発達や障害を学んだり、子どもの特性をよみとったりしながら、子ども・障害理解に努めるとともに、支援体制を把握し活用できるようにする必要がある。

 また、保護者が子どもの障害を受け止められなかったり、障害への理解が進まなかったりする場合には、子どもが十分なサポートを受けられない場合がある。保護者の障害受容・理解が進むよう、保護者との信頼関係を密にし、保護者の不安を受け止め共有しながら、保護者への細やかなサポートを行うことも求められる。

おわりに

 特別支援教育が求められる今、学校や医療、福祉等が連携し、支援の輪を地域社会に広げていくことで、認め合い、支え合いながら、子どもたちのためにできることを考えていく必要がある。


[i] 内閣府HP https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/gaiyou/h1_02.html

 全国(震災を考慮し岩手、宮城、福島の3県を除く。)の公立の小中学校各600校において、通常の学級に在籍する知的障害はないものの発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査が行われ、平成24年12月、文部科学省において公表された。

[ii] 文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入れ状況等に関する調査(平成26年度)」

[iii] 朝日新聞2020年6月1日

[iv] 掲注(i)

-幼児教育・子育て全般, 発達障がい

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